約 220,419 件
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/106.html
【武装神姫】セッション2-1【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18416769
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/107.html
【武装神姫】セッション2-2【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18583126
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2390.html
盛大な音が響き渡ってから、一刻。 「ごめんなさい兄さま。私ったらつい……」 「すいません周防先生。つい反射的に……」 部屋の中には、ベッドに座っている周防の前で土下座し、平謝りをしている二人の姿があった。 「いや、もう怒ってないから……2人とも顔をあげてくれないかな」 まだジンジンと痛む頬を摩りながら、必死に笑顔を作る周防。だがその顔には、見事な紅葉(もみじ)がくっきりと浮かび上がっている。 「……はい。本当に申し訳ありませんでした、兄さま」 「本当にすみませんでした。このお詫びは必ず」 尚も深く頭を下げる2人。 「本当に気にしないでくれ。アレは事故だったんだよ」 そう周防がなだめ続けると、2人ともやっと落ち着いたようで、ゆっくりと泣きはらした顔をあげる。 「……それは、それとして」 そして…… 「「この女(ヒト)、誰?」」 冷たい声が、極寒の音色を奏でた。 第5話 『 いんたーみっしょん 』 2つの冷たい視線を浴びながら、先ずはスミレに対して説明と言う名の言い訳を始める周防。 「ええと、此方は『白瀬 雪奈(しらせ ゆきな)』先生。大学の同僚講師なんだよ。わかったな」 「……はい、わかりました。って、ぇえ?」 ショボンと萎縮していたスミレがその説明を受けた途端、目を丸くする。 「だって白瀬先生って、普段はもっと地味でイモ……」 「(しー、しー!)」 一言ポロリと漏れるスミレに対し、必死のアイコンタクトを試みる勇人。 「あら、私の事ご存知なんですか?」 しかし、時既に遅し。 「え、いや、その、あの……」 白瀬の疑問に、あからさまにうろたえるスミレ。余計怪しいとしか言いようが無い。 「いやほら、家でコイツに学校の事とか色々と話していますし、それで知ってたんじゃないかなー……と」 すかさずフォローを入れる周防。 「そ、そうなんです! 白瀬先生の事は兄さまからよくお伺いしていて……! ですよね、兄さまっ」 「……あぁ、そうなんだ。いやすみませんね、勝手な事を言ってまして」 2人のやや白々しい笑いが、部屋に響く。 「はぁ……。まぁ、そういう事でしたら」 白瀬は完全に納得した様子ではなかったが、その説明を聞いて一応は矛を収める。 「……次に、こっちは……えぇと、白瀬先生は『武装神姫』はご存知ですか?」 「……はい。知ってます」 何故か、微妙な間。しかし勇人は気にすることなく話を続ける。 「それは良かった、話が早い。 ちょっと色々ありまして、少し前にとある友人からこの子を貰い受けたんですよ。 でも人に見られちゃ不味いかなと思いまして、ちょっと隠していたんです」 色々と端折ってはいるものの、一応嘘はついていない。と自分を納得させながら語る周防。 「成程……。でも何故お隠しに? 別に隠すほどの事でもないと思いますけれど……」 「そ、そうですかね。この年になって、こういう事をやってるというのは、周りに引かれそうな気もしますし」 「――そんな事ありません! えぇ、絶対に!!!」 それまでとは一転した、部屋の外にまで聞こえそうな白瀬の大声に、周防とスミレの2人はビクリと身を硬直させる。 「あ、すみません私ったら…………」 その行動が自分でも意外だったらしく、先刻以上に小さく縮こまってしまう白瀬先生。 「(……まさか、白瀬先生って)」 「い、いえ気にしていませんから。なぁスミレ?」 「え、あ……そ、そうですね。うん、そうですよ」 チグハグな相槌を返すスミレ。 「よかった。……あ、彼女のお名前、スミレさんって仰るんですね」 「はい、そうなんです。……それが何か?」 その答えに、何故か首を傾げる白瀬。 「あ、いえ。スミレってお名前、何処かで聞いた記憶が……」 ギクリと、再び硬直する2人。 「(兄さまこれは不味いです。早くなんとかしないと……!)」 「(あ、いや……。そうは言っても迂闊な事を言うと、更に墓穴を掘る可能性がだな)」 必死のアイコンタクトで秘密会話をする2人。 緊急事態で互いの認識能力が上がっているのか、今度はやたらツーカーである。 「そうですかね。日本人なら、割とよくある名前のような気がしますが」 「――そう、ですね。すみません私ったら変なこと言っちゃいまして、忘れてくださいね」 「わかりました。――それに、このすみれ色の髪が綺麗で、それから名前を付けたんですよ。な、スミレ?」 「あ、はいっ。実はそうなんですよー。 兄さまったら、『スミレの髪、凄く繊細で綺麗だな』だなんて……」 「――ん。いやそこまでは言ってない気がするが。お前の中で美化されてるんじゃないか、ソレは」 「そ、そんな事ないですもん。私と兄さまの思い出は、しっかり全部記憶してるんですから」 そのさくら色の頬を可愛く、ぷーっと膨らませるスミレ。 「――――ふふ。お2人はとても仲が宜しいんですね」 そんな2人の一部始終を、白瀬は微笑ましく見つめている。 「う、すいませんお客様の前で……」 「いえいえ、構いませんよ。お2人を見ているとこっちまで楽しくなってきますし」 「そ、それはなんとも……」 「あうあう。き、気をつけます……」 そう返されると、むしろ周防たちの方が恐縮してしまう。 「――ところで髪で気づいたんですけど、スミレちゃんはアルトレーネなのに、髪の色や服装が違いますよね」 「嗚呼……、スミレはアルトレーネはアルトレーネでも『アルトレーネ・ヴィオラ』というタイプなんですよ。 今度発売される限定モデルなんです」 「そうなんですか。私はてっきり、周防先生のお手製なのかと思いましたわ。 ……嗚呼、だから内緒にしてらしたんですね。発売前の子をあまり見せてはいけないと」 「はぁ……まぁ、そんな所です」 白瀬先生の疑問はそこで解決したらしく、納得したようにウンウンと頷く。 「……もしかして白瀬先生、武装神姫にお詳しいんですか?」 「えっ。 ど、どおしてそれ……じゃなくってっ。どうして、そうお思いになるんですか」 白瀬は動揺を抑えようとしているらしいが、あからさまに声が上ずっている。 「いえ。スミレがアルトレーネなんだとよくわかったなと思いまして。それに既存のタイプとは少し違う子な訳ですし」 周防はそう疑問に思うのだが、それ以前に、この数年でだいぶ普及して一般認知度も上昇したとはいえ、普通の人が武装神姫の種類までを覚えているとは思えない。 「……あはは、バレちゃいましたか。――実は、うちにも1人いるんですよ」 これ以上は隠し切れないと思ったのか、白瀬はあっけらかんと白状する。 「そうだったんですか。白瀬先生が……」 「えぇ、似合いません?」 「いや、そういう訳ではないですが……」 武装神姫も普及してきたとはいえ、女性型である為に必然的にユーザーの多くは若年~青年層の男性が占めている。 女性ユーザーもそれなりに増えてきているとはいえ、まだまだ少数派だった。 「そうですよね、お堅いイメージの白瀬先生がそんな趣味を……もがーっ!?」 「いえ、ちょっと意外だなって思っただけですよ。女性のユーザーは少ないと聞きますから」 スミレの口を慌てて塞ぎながら、周防は答える。……尤もサイズ差のせいで、全身をアイアンクローされたに等しい惨状になっているが。 「(あぁ、兄さまの手に全身抱きしめられてる……)」 ……幸せと苦しみがない交ぜになった、なんとも表現しにくい表情を浮かべている。 「そうですね。神姫センターに行っても男の人が多くて、少し戸惑ってますわ」 そんなスミレを無視するように、2人の会話は続いていく。 「そんなに男ばっかりなんですか。実はまだそういった店に行ったことがないので、よく知らないんですよ」 「そうなんですか」 「えぇ。まだ日も浅いですし、機会もなくて……。まだまだ初心者で」 「あら勿体無い。ネットで買われているのかもしれませんけど、やっぱり直接見たほうが良いですよ。 特にお洋服とかアクセサリーは直接見られた方が良いですよ」 「お洋服、それにアクセサリー……!」 そのワードに、スミレが勢いよく食いつく。 「えぇ。可愛いのとか、綺麗なのとかいっぱいありますよ」 「私、神姫センターに行ってみたいです。デートしましょ、デートですっ!」 子供のように瞳をキラキラと輝かせて、スミレが提案してくる。 「いや、しかしなぁ……」 周防としては、スミレをそんな公の場に連れ出していいモノかどうか、判断に迷わざるを得ない。 「そうですよ~、たまには遊びに行きましょ。じゃないと兄さま、ビール腹がもっと出ちゃいますよ」 「ぐぬ……」 最近気になりだした事を、スミレがピンポイントで抉ってくる。 「ほら。俺、場所も何処にあるか知らないしさ。神姫にあまり詳しくもないし……」 やはり危険だと思い、とりあえず適当な理由をあげてみる周防。 「あら。それなら、私がご案内しますよ」 「「え」」 白瀬の善意によって、周防の包囲網が狭まっていく。 「いやいや、先生にご迷惑はかけられません。コイツの我侭なんですし、マトモに請合わないでも」 「そんな事ありません。それに、先ほどのお詫びも兼ねて……」 周防の脳裏に、先程の恥ずかしい記憶が蘇る。 「あ、ソレこそ気にしないでください。本当に……」 「……それにですね。さっきも言いましたけど、女性1人じゃなんとなく行きづらいんですよ。 それで出来れば誰か一緒に来て欲しいな、なんて前から思っていまして」 「あ、嗚呼……なるほど」 「でも、周囲には神姫をやっている人もいなくて……周防先生が、初めての人なんです。 だから今回は私の為と思って、一緒に来てくれませんか。お願いしますっ」 そう来られると、周防としては同僚のお願いを無下にするわけにもいかず、退路を絶たれた格好になる訳で。 「わかりました。――今度の日曜日、神姫センターへの買い物に付き合ってください」 「――――はいっ。喜んで」 「やったぁ。兄さまとお買い物デートです~」 渋い顔の周防と、無邪気に笑うスミレ。そして、何故か頬を赤らめた白瀬の姿が、そこにあった。 続く トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1571.html
さて、今日も今日とてバトルエリアに詰める私ですが。 今日はなにやら、趣が違います。 セットアップを終了し、VRエリアに入り、いざバトルをと対峙した対戦相手の方なのですが。 「んー、こっちもいいわね」 「あの、主よ……」 「シルフィってやっぱり何を着ても似合うわね」 「お、お褒めの言葉はありがたく」 なにやらファッションショーをなさっておいでなのです。 それを見守ること、かれこれもう30分になるでしょうか。 武装神姫、シルフィと呼ばれたエウクランテの方はそれにやや戸惑い気味ではありますが、オーナーの方が丁寧に丁寧にお褒めするので、気恥ずかしくも(おそらく満更でもないため)断りきれないご様子で。 「どうしたものでしょうかマスターさん」 「どうしましょうねぇ犬子さん。いえまあこちらとしても、いろいろな装備を拝見できて退屈はしていないのですが」 「それは確かに。しかしお相手の方、衣装もちですね」 「衣装もちですねぇ。よくあれだけ持ちこめたものです」 「VRエリア内で換装するために、制限いっぱいに抱えてきたのでしょうねぇ」 「なるほどなるほど。ちょっと羨ましいですねぇ」 「羨ましい限りです」 「衣装ひとつ買ってあげられない甲斐性なしのオーナーで申し訳ありませんねぇ」 「やや、そんな意味で申し上げたのでは。マスターさんの経済事情は重々承知ですし、ご負担をかけるわけには」 「じゃあシルフィ、今度はこっちを試してみましょうか?」 「あ、主よ、相手もお待ちなので、そろそろ……」 む? シルフィさんが、こちらをちらりと見て話題を振ってきました。 ……微妙に助けを求めるお顔なのは、私の気のせいでしょうか? と、相手方のオーナーさんもこちらへ向き直りました。 おっとりとした印象の、温和そうな女性の方です。 「すいません、お待たせしちゃいまして」 「いえいえ、お気になさらず。女性の身支度には時間がかかるものですよ」 別段社交辞令でもなくそう言い切ったマスターさん。さすが紳士的です。 そんなマスターさんのお言葉を聴いて、シルフィさんが望みを断たれたような表情になられたのは私の気のせいでしょうか? 「んー」 一方、オーナーさんの方はその言葉に頬へ人差し指を当てて小首をかしげ。 「もし良かったらお待ちの間、こちらの装備、試してみませんか?」 もちろんご遠慮申し上げるべきという気持ちはあったものの、他の装備を試せる機会と言うのは願ってもなく、実際手持ち無沙汰だったのも確かでありまして、結局相手様――加奈美さんと仰るそうです――のお申し出はありがたく受けさせていただくことと相成りました。 かくしてVRバトルエリアは、エウクランテ&ハウリンの合同ファッションショー会場と化したのであります。 あくまでVRエリアでのやり取りであり、使用に際してのドライバはお互いの武装神姫本体のメモリーおよび対戦端末に依存しているため、可能なのは着替えまでです。 贅沢を申せば実際に使用した感触も試してみたかったものですが、まぁそこまで言ったら高望みと言うものでしょうし、それぞれの装備が自分に似合うかどうかを試せるだけでも十分すぎます。 この運びとなったとき、シルフィさんが「ミイラ取りがミイラに……!」とでも言いたげなご様子だったのは私の気のせいでしょうか? 「やー、ハウリン装備のシルフィさんも、なかなか似合いますねぇ」 「そうですね、ハウリンもエウクランテも凛々しい系の顔立ちですし、相性いいですね」 「あ、いやその、お褒め頂き、恐悦至極」 「こちらのエウクランテ装備の犬子さんも……悪くは無いのですが、なんというかシルフィさんが装備してたときに比べてほほえましいと言うかなんと言うか」 「むむ、どこかおかしいでしょうか?」 「ハウリンは頭が大きめですから、多分そのバランスじゃないですか」 「なるほど、言われてみれば。ああ、分かりました、SDな印象を受けてたのですね」 「でも、これはこれで可愛いじゃないですか」 「ええ、それは疑うことなく」 「照れるじゃありませんかマスターさん」 「こうしてみると、ハウリンも可愛いわね。……ハウリンでも良かったかな?」 「あ、主!」 「ウソウソ。シルフィが一番可愛いわよ」 「あ、主……!」 「良い弄られっぷりですシルフィさん」 「愛されてますねぇ」 「か、からかわないで頂きたい!」 「はーい、スクリーンショット撮るからこっち向いてねー」 「やー、いいですねぇ。僕もメモリーカード用意してくればよかったです」 「あ、でしたらメルアド教えていただけたら、後で送りますよ?」 「やや、それはありがたいですねぇ」 「何から何まですいません」 「お気になさらず。はいじゃあ二人とも、今度はポーズ変えて……」 「んー、それじゃあ今度はシルフィが前に出て……」 「こうか?」 「あ、犬子さんにはこう構えてもらうとどうでしょう?」 「こんな感じでしょうか?」 「あ、いいわね」 と、そんな風に和気藹々と過ごす私たちですが、不意にエリアにアラームが鳴り出します。 どうやら、そろそろ時間制限のようですね。あと一分足らずで、私たちは排出されると思われます。 「どうしましょうか?」 「今から戦う、と言うのも無理な話ですよねぇ」 「そうですねぇ」 「うむ……」 周囲を見渡せば着替えた装備が散乱していて、この中から必要な装備を選び出すだけで制限時間は終了してしまうでしょう。 「仕方ありません。続きはまたの機会に、というところでしょうかねぇ」 「そうですね、またの機会に」 「はい、いろいろお世話になりました」 「うむ。では達者で」 こうして再会を約束しつつ、私たちは最後まで和やかに別れたのでした。 で、ありますが。 『またの機会』に行われるのは、バトルとファッションショーの、一体どちらなのでしょうかね? <目次> メール開通記念小ネタ第三弾、神姫愛好者さま宛。 えー、まぁ、無駄に拙作の伏線張ってあったり、 通信対戦でたまたま出会った、と言うのを想定してたり、 加奈美さんはまたSSが撮りたくてVRエリアに入りたがっていたり、 マスターさんより前の対戦相手は、加奈美さんがいつまでたってもセットアップを終了しないのに痺れを切らしてキャンセルしてたり、 VRエリアでは、あくまで使用に際してのドライバはお互いの武装神姫本体の記憶容量野および対戦端末に依存しているため、あくまでやりとりが可能なのは「ガワ」の部分だけで実際の使用はできない、とか無駄な裏設定考えたり、 とかそんな風ことを色々と考えてはいるわけですが。 「4話でアレだけやってまだ着せ替えたりないのかい」とか 「宗太くん相手の時ならともかく、野良対戦でそんな悠長な」とか 「対戦台が、一時間も占有できるように設定してあるか?」とか わりと致命的な部分にツッコミどころが残っていますwww まぁあくまで小ネタと言うことでひとつ。 <目次>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2608.html
2ページ目『猫、襲来』 薄壁一枚の向こう側で、鉄子が弧域にマンツーマンで授業してもらっていることを思うと、さっきまでの逆ギレ(自分が悪いことは重々承知している)の勢いはみるみるうちに萎んでいった。 ゴワゴワした肌触りの枕に頭を預けて横を向くと、机の隅に置かれた武装神姫、悪魔型ストラーフが目に入った。お手製の学ランを着こなしスラリと立つその姿は普段なら見ていて飽きることはないが、今はそんな気分にはなれなかった。ストラーフの隣に並んだ大小様々色とりどりの教科書が、嫌でも目に入ってしまうからだ。 嫌なこと、理解できないことから目を背け続けても、姫乃を叱る者は誰もいない――いや、いなかったのはつい数分前までのことだった。 大多数の大学生が頭を悩ませることの一つ、就職活動。研究者になる、ニートになるなどの一部を除き、学生は学業の合間にその準備を進めなければならない。しかし姫乃は専ら永久就職後のことを気にしていた。贅沢を最大の敵としたシビアな家計簿。子供の成長を見守る多忙ながらも暖かな家庭。その中には共働きをすることも含まれていた。前提である内定入手のことは、一切考慮されずに。 (将来のための勉強って言われても、分からないよ) 永久就職の前にすべきことを具体的に考えていなかった姫乃である。その絶大なコネで採用されるはずだった就職先に「勉強しない人は嫌だ」と拒絶され、愛すべき同レベルの友にも「や、勉強せんとガチでヤバいし」と突き放され、途方に暮れるしかなかった。 (私だって、留年したくない……みんなと卒業したい) 素直に謝りに行けば1分とかからず元の輪の中に入れる、そのことが増々、意地っ張りな姫乃を凍えさせた。毛布にくるまってもなお、冷気が身に染みる。 「……寒すぎ」 気持ちの寂しさなど超えて、いくらなんでも寒すぎることにようやく気付いた姫乃だった。築数十年のボロアパートとはいえ、室内には隙間風と呼ぶには強すぎる冷風が流れこんでいた。一際強い風がベランダの窓から侵入してきて、カーテンが大きくはためいた。 一人暮らしであるにもかかわらず、気づかない間に開いていた窓。それが何を意味するのかを想像して、姫乃の体は竦んでしまった。 (やだ、誰かいる!?) 大きな声を出せばすぐに弧域が飛んできてくれることにすら気が回らず、狸寝入りを続けることしかできない姫乃は、泣きそうになるのを辛うじて堪えた。早鐘を打つ心音すら侵入者に聞かれそうだと恐れ、じっと息を潜めた。 胸が詰まり、その苦しさがかつて負った心の傷を抉るように開いた。弧域と出会ってから決別したとばかり思っていた悪夢に心臓を鷲掴みされるようだった。不意にどこからか、カチカチカチカチ、と小刻みな音がした。 (な、何の音!? 静かにしてよっ……!) それが自分の歯が鳴っている音であることにすら気づけず、姫乃はその音が侵入者に聞こえないことを祈った。 窓のほうを覗き見ることもできず、風が流れる音とカーテンが揺れる音に混じった音を拾った。複数の侵入者の声、そして……ピコンピコンというレトロチックな電子音。 「レーダーの反応が強い――ここで間違いなさそうにゃ」 不当に侵入したというのに微塵も悪びれることなく窓際に立つ、身長15cm程度の人形。この後、その小さな姿を見た姫乃は、もう少し勇気を持とうと決意するのだった。 ■キャラ紹介(2) ホムラ 【 1/2 】 かつて、テレビコマーシャルの中で動くマオチャオに心を奪われた一人の男子高校生がいた。 裕福な家柄だったことが幸いし、彼は発売日に5体のマオチャオを手にすることができた。冷ややかな妹の視線などまるで意に介さず、数時間かけて名前を決めた愛らしいマオチャオ達に囲まれた彼は、これまでにない幸福感を味わった。 目覚めさせた順番に長女、次女、三女、四女、五女として、彼はマオチャオ達が自由気ままに過ごすのを見守った。時間が経つにつれてそれぞれの個性が出来上がっていく様子は彼にとって驚くべき、そして喜ぶべき発見だった。次々と彼に新たな喜びを提供していく彼女らとの生活には、しかし、時間的な限りがあった。高校生である以上、何よりも学業が優先されてしまう。 だから彼の取った行動は至極単純で、当然のものだった。一日毎に一体ずつ、学校の鞄に忍ばせることにしたのだ。少しでも長い時間を、マオチャオ達と過ごしたい。そんな純粋な想いが、結果的に彼を破滅させるとは知らずに。 比較的大人しく聞き分けの良い長女を月曜日に、次の日は次女……というローテーションの一周目は、彼の想像に反して何事もなく過ぎていった。鞄の中に隠れたマオチャオ達は皆、ほとんどの時間を眠って過ごしていたからだ。 しかし二週目の月曜日、我慢の限界を迎えたのはマオチャオではなく、彼自身だった。 弓道部内ではその日、思い思いに着飾らせたホイホイさんの自慢大会が開かれていた。武装神姫とは一桁以上値段が安いホイホイさんは部内でのブームになっていて、高価な神姫を持っていたのは彼一人だけだった。 最初は遠巻きにその自慢大会の輪を見守っていただけだったが、手作りのドレスを着たホイホイさんや、ゴテゴテに武装されたホイホイさんを見ていると、彼は無意識のうちに、鞄から長女を出していた。 「よいのですにゃ? わたくしたちの存在はわたくしたちだけの秘密では……」 長女の諫言に耳を貸さず、その日【たまたま持っていた武装】を長女に装備させた彼は、ホイホイさんの輪の中に長女を投入した。 ホイホイさんと比較して圧倒的に精密な人形である長女は、一瞬で部員達の視線を独占した。人間に近い身体、生き生きとした動き、そして多数の人に囲まれて目を白黒させる長女の可愛らしさ。それらすべてが、彼が望んだ通りの部員達の反応を呼んだ。 質問攻めにあう彼と長女。代わる代わる抱かれて長女の顔に少々疲れの色が見え始めた頃、部員の中の一人が、こう言った。 「ホイホイさんと神姫って、どっちが強いんだ?」 女子部員達は、そんなことはどちらでもいい、と興味が無さそうだったが、彼を含めた男子達はそうではなかった。 彼はまだ、マオチャオ達にバトルをさせたことがなかった。この時はまだ神姫の黎明期であり種類が少なく、バトルができる筐体もあまり見かけなかったこともあるが、彼はマオチャオ達との生活を楽しむあまり、バトルのことをすっかり忘れていたのだ。 もしこの時彼が、武装神姫を専用筐体以外で戦わせるのは禁じられていることを思い出していれば、直後の悲劇は回避できたことだろう。あるいは、常識を持った長女がもう少し強く諌めていれば、彼女が無残な姿になることはなかったかもしれない。 ホイホイさんが一切の感動を込めず引いた引き金に連動して発射された、一発の銃弾。それを回避した長女は、瞬間、自分が猛獣の檻の中に放り込まれていたことを悟った。 一対一であったはずの、異種格闘技戦。 しかし銃声に反応した多数のホイホイさんは、単純な知能に従い、状況を開始した。 後に “Mの悲劇” と呼ばれる事件である。 次ページ『フィギュアじゃない』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/402.html
「俺とティアナの場合」 プロローグ 「やっぱ、買うしかないよな!」 俺、木ノ宮 翔(このみや かける)はある小売店の店頭のショーウィンドウの中のあるものの購入を決めた。 それは…武装神姫だった。 しかもつい先日発売されたばかりの、最新の第4期モデルの「ジルダリア」。 ちょっと前から神姫は欲しかったけど、どうせなら最新モデルを買ってやろうと決めていた。 そうして発売日に量販店に朝一で突撃するもライバルは多くて買えなかった。 であきらめてと、とぼとぼ家への道を歩いていると寂れた玩具屋(電気屋か?)のショーウィンドウにジルダリアのパッケージが置かれ、ポップには「予約キャンセル品につき5%OFF!」と書かれてた。 それを見て数秒で俺は購入を決めた。 即入店と共に店のおじさんに代金(バイトでせっせと貯めたものだった)を全て現金で払って手に入れた。 おじさん曰く「神姫の購入代金を全て現金で払う学生はあまりいない。」らしい。 というわけで意気揚々とウチに帰ってパッケージを開けた。 そして説明に沿ってCSSをはめ込む。種類は性格、戦闘特性、その他の順で「気さく」「オールマイティ」「自動学習」だ。 そうして"彼女"が起動する。 「はじめまして、マスター。」 「ああ、はじめまして。俺の名前は翔、カケルだ」 「カケルね。了解したわ。 さっそくなんだけど、名前をもらいたいな~」 「わかってるよ、君の名前はティアナだ」 「…ティアナ…いい名前。」 「よろしく、ティアナ。」 「ええ、カケル。」 そうして俺とティアナの生活が始まる。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/821.html
戦うことを忘れた武装神姫・東杜田の日常 東杜田技研・商品案内(ちっちゃい物研・商品案内) 商品案内-01 通称「ちっちゃい物研」が開発した神姫関連製品の紹介第一弾。和の心を大切に。 商品案内-02 神姫関連の架空製品の紹介第二弾。キャッチコピーは「おいしゃさんごっこって何ですか?」。 商品案内-03 第三弾。冬の必需品と言えば・・・。猫子オーナーならば、ぜひとも欲しい一品です。 商品案内-04 第4弾。ついにデラックスタイプのクレイドルが登場しました。ご予算は大丈夫ですか? 商品案内-05 第5弾はいきなりの玄人向け製品。さすがちっちゃいもの研、相当のキワモノです。 商品案内-06 「ちっちゃい物研」製品シリーズ、一部発売延期のお知らせ。 開発側で何やら問題が・・・。 商品案内-07 サブパワーユニット、開発中止?!・・・と思いきや、1ユニット型だけにしぼっての開発続行のようです。 商品案内-08 人気のクレイドルシリーズ、充実の兆し。しかも今度はオールシーズン対応のお手頃価格! 商品案内-09 東杜田技研の他の部署にも神姫熱が飛び火した模様。神姫サーキットが出来る日も近い?! 商品案内-10 神姫とお出かけするときに、困ることはありませんか? 例えば・・・そう、出先での充電とか・・・。 商品案内-11 隠し球で突如発表・発売されるも、2時間ともたずに即完売したという伝説のアイテム! 商品案内-12 お手軽にパワーアップを望む神姫たちに、オーナーさんたちに、ぜひオススメの逸品! 商品案内-13 神姫のボディーケア、ヘアケアを怠ってはいませんか? 神姫には、ぜひ神姫専用品を! インプレッション情報 ホビーショップエルゴにて、一部商品のインプレが掲載されています。 ご購入の際の参考にどうぞ! <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2551.html
MMS戦記 各種設定用語集 その1 MMS戦記に登場する各種世界観の設定や用語を紹介します。 非公式バトルロンド 神姫センターやゲームセンター以外で行われる非公式のバトルロンドのこと。 違法性の強い、危険なバトルロンドや犯罪行為に相当する非公式のバトルロンドのことを一般的に指す。 これらのバトルロンドは取り締まられることもあるが、警察内部の腐敗もありそれほど熱心には取り締まられていない。特に西日本は大手MMS企業が半ば公然と非公式会場まで用意して開催しており、非常に強い勢力を誇っている。 MMSは、社会に多大な影響をもたらしたが、そういったMMSは2030年代後半にはかなりの数が普及し、全国に相当数の神姫センターが作られるようになった。だが公式の一般的で健全なスポーツ大会などの大衆娯楽に飽きてしまったマスターや神姫が多いことも手伝って、瞬く間に地下の非合法の間に浸透していった。 非公式地下バトルロンドの会場には様々だが、以下のようなものがある。 廃墟となった大型建築物 倉庫、ホテル、ビル、学校、工場、炭鉱 等 上記のような廃棄された建築物で即席に行なわれることもあるが、こういった所で行なわれる非公式バトルははっきり言ってしまうと、「粗末」に尽きる。 設備も整っていない、衛生上好ましくない、立地的に不便などの理由で開催されるのは地元のはぐれ神姫オーナーやMMS暴走族など、金銭面であまり優れてない低所得のオーナーが集まることが多い。したがってバトルも神姫も低レベルなことが多い。粗悪なイリーガル神姫や低レベルな違法カスタマイズされた神姫などが幅を利かせている。 暴力団、マフィアが管理する非公式会場 繁華街地下、ラブホテル、神社、寺、裏バトルロンドセンター、貨物船改造裏センター 等 暴力団やマフィアなどの裏組織が運営する、ある程度の設備が整った非公式会場。そこそこの規模で正規の神姫センターとさほど大差ない、また立地的にも優れている所が多く、金銭的にもお手ごろではある。また暴力団の用心棒などが目を光らせており安心して違法な非公式バトルロンドを楽しむことが出来る。金銭面に普通のオーナーが集まることが多い、神姫のレベルやバトルも標準レベル。イリーガル神姫はたまに見るくらいでほとんどはそこそこ名のあるランカーMMSや公式大会に出た強神姫などが多い。 企業、富裕層、特権階級が管理する非公式会場 高級ホテル、リゾート地、無人島、大型豪華客船、小規模都市 いわゆるお金持ちご用達の非公式会場の中でも最高級の会場である。 有り余る資材と金銭をかけて贅沢に作られた会場で、設備は完璧で中には宿泊施設まで備わっており十二分に神姫バトルを楽しむことが出来る。ただ参加するだけでもかなりの金銭が必要で、バトルの賭け金も他の非公式会場とは比べ物にならないほど高額である。中には豪華客船を丸々バトルロンド会場に仕立てたあげた移動式神姫センターともいうべき豪華客船が外国船名義で何十隻も存在するとも言われている。 参加する神姫は二つ名持ちのSSS級、SS級、S級はざらで、中にはMMS企業が開発したカスタム強化したMMSや新型MMS、試作神姫など強力無比な神姫が多い。 リアルデスバトル 実弾入りの重火器を用いて戦う、文字通りのリアルファイト。参加する神姫のギャラも、賭けの配当が高いが、MMSを破壊するだけでなく、CSCを完全破壊することも厭わない殺し合いである。 一応、観客保護用のバリケードも出てくるものの、流れ弾に当たって観客が殺傷するケースも多い。しかし、そんな危険と隣り合わせの緊張感でさえも観客に興奮と刺激を与えるものとなり、実戦での緊張感が伝わってくるといわれる。 基本的に1対1で戦うルールだが、場合によってはハンディキャップマッチも組まれることがあり、大規模バトルロンドでは強ランカーMMS1体 対 通常MMS100体 という超変則マッチが組まれるようなハンディキャップマッチが行われることも多々ある。 他にも泥レスに近いダートバトルに、複数神姫のチームによるバトルロイヤルなどいろいろなものがある。また、この手の非公式バトルロンドではよくある観客や審判の目を盗んでの反則行為や、八百長によるイカサマも後を絶たない。 このような非公式の地下バトルロンドはMMS企業が開発したカスタム強化したMMSや新型MMS、イリーガル神姫の実験場としても用いられた。 マッチメイカー 参加するMMSのオーナーは出身も様々だが、大半は公式の神姫センターやバトルからあぶれた荒くれ者であるケースが多い。そういった人材を発掘し、自分の専属選手にするのが各地の街に属するマッチメーカーである。マッチメーカーは強力な神姫の発掘と育成、試合交渉や取組の決定なども行うが、闇のMMS商人出身者も多く、また、人を簡単に騙すというイメージもあるので、一般的にイメージはあまり良くない。勿論、人間が出来ているマッチメーカーもいるが、タチの悪いマッチメーカーは参加するマスターや神姫を食い物にした後に放置し、犯罪に巻きこまれてしまうケースも多い。 賭け試合 非公式バトルに参加するオーナーは、戦いの緊張度を高めるために「賭け」を行うことが基本ルールとなっている。 賭けるものはなんでも構わない。 過去に賭けに出された物の一覧 金、証券、貴金属、土地、ビル、臓器、美術品類、自動車、漁船、事務機器類、牛、書籍、女、工場、銃火器、武装神姫、会社、ミイラ、人口衛星、島、名簿帳、同人誌、恐竜の化石、旧式潜水艦、などなど 多いのは「金」「高価な武装神姫のパーツ」等など、多種多様だが、若い女性が金銭目的で大金を賭けて、自分には金がない場合は、体を差し出す場合がある。無論そのような勝負に敗北することが、それがどういう意味かは、わざわざ語るべくもない。 そのような危険な賭け試合であるが、手軽に大金を入手することができるので、若者や青少年に人気が高く、社会問題にもなっている。特に未成年の女性が勝負に負けて暴行を受けてしまう事件が後を絶たない。 関西の神姫と関東の神姫の相違点 一般的に大阪の神姫と東京の神姫は色々な点で異なる点がある。 その1 周波数 まず、大きな点として神姫が使う周波数が違う。 冷蔵庫や洗濯機など家電製品を使用する場合,関東では50ヘルツ,関西では60ヘルツと電力の周波数が違う。これは,日本で初めて発電が始まったときの経緯による。明治29年,東京電灯(東京電力の前身)はドイツのAEG社から50ヘルツの発電機を購入したが,その翌年,大阪電灯(関西電力の前身)はアメリカのGE社から60ヘルツの発電機を購入して操業を始めた。以来100余年,新潟県の糸魚川から静岡県の富士川を結ぶラインを境として,50ヘルツと60ヘルツの地域に分かれてしまった。その後,周波数を統一する動きは何度かあったが,そうするとどちらかの地方の電気製品は使えなくなってしまう。。第二次世界大戦直後、復興にあわせて商用電源周波数を統一するという構想があったが、復興が急速に進んだことで実現がほぼ不可能になってしまったとされる。2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0を記録する東北地方太平洋沖地震と津波が発生し、日本各地に甚大な被害がもたらされたときにも周波数の違いで関西と関東で電力を共有か出来ない事態が発生したことがあるにもかからわず、21世紀から四半世紀たった現在も統一は多難で、この問題は後のMMSたちにも非常に大きな影響を与えてしまった。 周波数を統一するには一方あるいは両方の地域の発電機を総て交換しなければならない(あるいは応急処置的に発電する段階で周波数を変換する設備を組み込み、それを通す)うえ、周波数を変更する際に停電が伴ったり、さらに周波数に依存する機器(後述)を交換するかそれに対策を施す必要があるため現実的には殆ど不可能に近い。 さて、武装神姫であるが、主に関西の神姫は標準周波数60Hzの武装パーツを使用し、関東の神姫は標準周波数50Hzの武装パーツを使用する。 ここで大きな問題となるのは、関西の神姫と関東の神姫は武装パーツの交換が出来ないということである。 一般に電化製品には電源周波数を指定して設計・製造されているものがある。神姫も同じで、周波数の異なる地域で利用する際には部品交換や改修が必要となる。また、改修に対応できず、買い換えを余儀なくされることもある(神姫によっては改修するより新規購入の方が安価である場合も考えられる) だが例外もあり、大型の武装神姫「戦艦型MMS」「航空母艦型MMS」などの通常の神姫の数倍の大きさの神姫には、高効率化・低消費電力化などを目的にインバータを用いて製品内部で周波数変換しているものも多くある。これらは一般に電源周波数に関係なく使用できる(いわゆる「ヘルツフリー」と呼ばれる。) このため、神姫オーナーが引越し(例えば東京から大阪)の際には、利用している神姫の表示(銘板)や取扱説明書で対応周波数を確認し、引越し後にそのまま利用できるか、あるいは改修が必要か確認することが重要である。大型MMSには「50/60Hz」と記載されていれば、そのままかあるいはMMSのハードで周波数で切り替えることで、どちらの周波数でも利用できる。 電動機を搭載した武装の場合、50Hz・200V、60Hz 200/220Vという表記をしたものが一般的であるが、極まれに60Hz200V時に起動不良問題が起こる。 これはコイルのインピーダンスが周波数に反比例し入力電流が減少し起動トルクが低下するためである。電源電圧を220Vに近くする、プーリーやギヤ比を換える、あるいは60Hz用に設計した機器を使うなどの配慮が必要である。 こういった点があるため、関西と関東では同じ神姫であっても武装の共有化が出来ないので、文化的、種類的にもまったく別系統の進化が起きてしまっている。 その2 文化 これは良く言われている事ですが、関東では右側が追越車線、関西では左側が追越車線です。 重い武装などを持っている神姫を追い越す場合などは、大抵の場合、武器は右手に持つ人が多いので、関西の方が追い越すのに武器にぶつかる事が少なく合理的な様な気もするが・・・ただ、広島や九州は関東と同じで右側が追越車線です。道路のルールに習うならば、右側が追越車線? そのため、戦場で乱戦状態になるとこの追い越しの車線の変更でまとめておかないと大きな事故になったりぶつかったり洒落にならない事態になることが起きる。 細かいことだが、けっこう重要だったりする。 マ*ドナルドの呼び方関東ではマック 関西ではマクドです。 ヨメ vs かみさん関西の皆様は自分の愛神姫を『うちのヨメ』とおっしゃいます。関東では、『うちのかみさん』と呼ぶことが多い様です。 ただ、ネットで「~は俺の嫁」というフレーズが流行ったため『うちのヨメ』といういい方が圧倒的に多くなってきている。 言語の違い 言い出すときりが無いが、関東と関西では言葉の違いが激しいため、神姫同士での意思疎通が出来ない場合が発生する。 そのため大阪にいる神姫と東京にいる神姫は、文化的(ソフト)にも武装的(ハード)にも相容れないので、お互いがお互いを嫌ったり差別したりするといった問題が発生している。 性質の違う神姫が突然出会えばお互いに警戒・威嚇をするのは当然といえば当然のこと。 ほとんどの神姫は元々集団で生活して縄張り意識が強い。普段、関西にいる神姫と関東で暮らす神姫は縄張りが重なることはほとんど無いが、マスターが神姫を連れて関東の神姫センターに出かけるとそこの神姫の縄張りに入ることになる。そこで関西の神姫と関東の神姫は激しく反発するという単純な理由。 本当は仲が悪いからケンカをするのではなく、知らない相手だからケンカをする。だから関西の神姫と関東の神姫が小さい頃から一緒に育てると特に警戒心を持たず、仲良く遊ぶことも多い。 関西と関東で神姫の性質や性格、モノの考え方や文化面があまりにも違うので、マスターたちは戸惑うことが多いようだ。武装や戦術もここ数年で大きく変化してきている傾向が見られる。 ちなみに、バトルロンドで関西の神姫と関東の神姫が戦うと、問答無用の凄惨な戦いが発生することがしばしばあるので、注意が必要である。 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1725.html
{かくれんぼ(前編)} 「あぁ~あダリーぜ」 悪態つきながらリビングで身体をダルそうに動かす俺がいる。 何故こんなダルいか、というと、今日はあいつ等達のメンテナンスをやるからだ。 最近はバトルの回数が多く、色々と損傷箇所を見つけたり身体能力の更新をチェックをしないといけない。 さらに付け加えて言うならば俺の違法改造武器をフル装備してバトルをするもんだから経験値データがハンパなく蓄積データとしてあるため、メンテナンスでクリーンアップしたり断片化されたデータも最適化しないといけないのだ。 正直に言うと…萎える…。 このメンテナンスの仕事の量は大量過ぎるし俺には四人の神姫がいる。 GRADIUSは厳密に言うと神姫じゃないので数に入れない、どちらかというと武器の方だ。 だからその分はアンジェラス達もより早くメンテナンスが終わって楽という事。 「…そろそろ行くか」 煙草を鉄で出来た吸殻入れにブチ込み、自分の部屋に向かって歩く。 準備はとっくに用意しといたので、後はあいつ等がクレイドルに座ってスタンバイしといてくれれば万事O・Kー。 まぁそこからはダルいメンテナンスが始まるんだけどね…。 はぁ~、溜息が止まらない。 ドアノブに右手で握り回す。 「お~い。お前等いるか~?」 ドアを開けながら自分の部屋にズカズカと入った瞬間、俺が見た光景に更なる溜息を吐かせる原因が出来た。 その原因とは言うと…。 「…はぁ~…イネェ~…」 そう、クレイドルに座ってる奴は一人も居なかったのだ。 マジで?と思いながら俺は椅子に座りノートパソコンの近くに置かれている煙草とジッポを手に取り、煙草に火を付けて煙草を吸う。 そしてまず最初の一言。 「なんでイネェ~んだよ」 空っぽになっているクレイドルを睨みつけながら言う俺。 今日はツいてないみたいだ。 でもまぁここは悪運に強い俺に期待しよう。 必ず奴等を見つけ出しメンテナンスしてヤる。 じゃねーと姉貴に怒られるのは俺だからだ。 一応、これもバイトの一環でやらせられてることだがらな。 ほんでもって、ちゃんとメンテナンスしてないと姉貴のクソ長ったらしいぃ~説教時間をクらう訳。 イヤだ、そんなのは絶対にイヤだ。 <? Some lack?> 「ん?あぁ、グラディウスか。全くもって不足だよ」 武装神姫が四人程な。 両刃剣を持ちながら来たグラディウスは徐にクレイドルの方を見て、次に俺を見ながら。 <Was it maintenance?> 「そ。あいつ等のメンテナンスをヤろうと思ってだんだが、ご覧の通り。バックレやがった」 <Now, there is a problem. Master is useless> 「『駄目』だしする程じゃないけど…俺が怒られるのは勘弁ならねぇから探し出すまでよ」 <I cooperate right now> 「サンキュー♪でもまずお前からメンテナンスした方が早いから今のうちにやっとこうぜ」 <consented!> 両刃剣を一番目のクレイドルの隣に置き、クレイドルに寝そべるグラディウス。 そんじゃあ、メンテナンス開始しますか。 ノートパソコンのキーを叩き次々にグラディウスのデータを調べ上げる。 ふむ、どうやらグラディウスには戦闘以外でも色々と蓄積されたデータがあるみたいだ。 それに人型に変形している時間帯が最近多くなってみたいだな。 まぁあの四つのペンダントの内、唯一人型に変形できて自立行動が出来る武器だからな。 カタカタとキーを叩きメンテナンスをしていく。 「………こんなもんだろ。はい、終わったぜー」 <Thank you> クレイドルから降り両刃剣を拾うグラディウス。 これでグラディウスのメンテナンスは終わった。 にしてもこのクレイドル、普通に一般で売られてるクレイドルとは少し違う。 なんでこんな所に『No Step』て書かれているんだよ。 そんなに危ない場所なのか? でもまぁ番号はあいつ等の順番通りだからいいとして…。 「なんで裏に注意書きが書いてあるかなぁ~。本当は英語で警告て、書かれてるんだけど」 <…?> 「いや何でもない。そんじゃあ奴等を捕まえに行きますか」 <Yes!> グラディウスと共に四人の武装神姫を探索するため立ち上がった。 …にしても気になる。 あのクレイドルはVIS社の支給品だ。 姉貴には必ず充電する時とか、メンテナンスする時はこのクレイドルじゃないといけない、と言われたし…なんだか気にクわない。 あの警告に書かれている内容はあまりにも厳密過ぎるし、話すと長くなるからまた今度。 今はア・イ・ツ・等のかくれんぼに付き合わないといけないからな!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2273.html
キズナのキセキ ACT1-2 情けないほど何も知らない □ 「菜々子さん、どうした? 今どこにいる?」 もはや尋常ではない。 電話先から聞こえてくるのは、冷たい風の音と、彼女のかすかな泣き声。 今俺が自室で暖房つけていても寒いというのに、彼女はこんな夜にどうして外を出歩いているのか。 そして、彼女の言葉。 負けた……誰に? 何をして? どこでなんの勝負をした? 心が不安に浸食されていくような気持ち。 考えれば分かるような気がしたが、そうすると嫌な予感に捕らわれてしまう気がして、努めて考えないようにしながら、菜々子さんに声をかける。 「今どこにいる? 迎えに行く」 「……」 「どこにいるんだ!?」 さすがに心配になって、俺は語気を強くした。 こうやって、感情に訴えるところが、自分のダメなところだと自覚し、一瞬落ち込み、反省する。 一息、間をおいて、かすれた声が帰ってきた。 「……C港の倉庫街……A街区……」 なんだって、そんなところにいるんだ。 それでも俺は頷いた。 「わかった。すぐに行くから、待ってて」 「……たかき、くん……あ、あたし……」 「すぐ行く。言いたいことは、会ってから全部聞く」 「……ごめんなさい……ごめ、ん……」 途切れ途切れのかすれた声。 まったく彼女らしくない。 そんな電話先の様子に、俺は不思議に思うよりも、心配する気持ちが勝った。 「謝らなくていい。すぐに行くから。いいね?」 「……うん……」 かすかな答えを聞いて、俺は電話を切った。 次の瞬間にはものすごい焦燥に駆られつつ、外出の準備を開始した。 ちらり、と時計を見る。 もう夜九時を過ぎていた。 □ スポーツバッグを引っ張り出してきた俺は、急いでバスタオルやら使い捨てカイロをつっこみ、部屋着から外出着に着替え、上着の内ポケットに財布が入っていることを確認すると、上着の胸ポケットにティアを納め、冷たい夜に飛び出した。 寒いわけだ。 真っ暗な空から、白い雪が音もなく降り注いでいた。 すでにあたりはうっすらと雪化粧している。 近所のコンビニまで、雪に足を取られそうになりながらも、なんとか走ってたどり着いた。 ホットのお茶を大急ぎで二本買う。 店を出てすぐに、運良くタクシーを捕まえることに成功した。 ついている。 「C港倉庫街のA街区まで。急いで」 それだけ言って、タクシーの後部座席に収まると、俺はやっと一息つくことができた。 大通りは行き交う車も多く、まだ路面が濡れている程度だった。 だが、フロントガラスには、次々と大きな雪片がまとわりついてくる。 タクシーは滑るように雪の中を走っている。 メーターの金額がじりじりと上がっているが、俺は無視した。金には換えられない。 俺は腕組みをしたまま、べっとりとフロントガラスに付着する雪を見つめていた。 そうしていれば何も考えずにすむ。 今は、菜々子さんの心配以外のことを考えたくなかった。 雪は一定の間隔で、ワイパーの無情な動きにぬぐい去られていく。 ■ 菜々子さんが負けた勝負とは、おそらく武装神姫のバトルだろう。 わたしたちの間で勝った負けたと言ったら、それ以外には考えられない。 だけど、港の倉庫街でバトル? ゲームセンターや神姫センターではなく? 負けたというだけで、マスターに電話するほどのこと? マスターはどうしてそんなに急いでいるの? わたしには何も分からず、ただ、不機嫌そうな表情のマスターを見上げることしかできない。 タクシーは夜闇の中を走り続ける。 □ C港はC県最大の貨物陸揚げ高を誇る産業港だ。 夜でも荷揚げ用の大型クレーンのライトがともされ、その威容を誇っている。 広い敷地にひときわ高くそびえ立つのが、C港から東京湾を一望できる高層建築、ポートタワーである。 雪に霞む周囲の景色の中でも、ポートタワーの明かりははっきりと見えた。 その明かりが間近に見えるところで、タクシーは停止した。 俺は代金を払うと、帰りも利用するので、そのまま待ってて欲しいと運転手に伝える。 運転手が了承したのを確認して、開け放たれた扉から、俺は夜に飛び出した。 「菜々子さん!」 彼女の名を呼ぶ。 一口に倉庫街の一街区と言っても、結構広い。 あたりには人気も車通りもない。 湿り気を多く含んだ雪は、その勢いを増しており、倉庫街の道路はすでに白く染まりつつあった。 俺は辺りを見回しながら、菜々子さんを捜す。 しかし、何分暗く、雪のせいで見通しも悪い。 俺は焦燥を募らせる。 ダメもとで、携帯端末を手に取った。 目指す番号が表示されるのを待つ時間さえもどかしい。 菜々子さんの携帯に電話する。 呼び出し音。 すると、意外にも近くで、同じタイミングで着信メロディが鳴った。 菜々子さんの携帯の着信メロディだ。 俺は音のする方に走る。 すると、一つ先の倉庫の裏から、音は聞こえていた。 倉庫の間の路地を走り、音のする方を見る。 人影はない。 音は足下から聞こえてきた。 そこにあるのは、不自然な形の雪のかたまりだった。 「菜々子さんっ!!」 俺は大急ぎでしゃがみ込むと、そのかたまりを抱き上げる。 うっすら積もった雪の下から、うずくまった姿勢で倒れているコート姿の女性が出てきた。 菜々子さん。 大急ぎで、彼女にまとわりつく雪を払う。 頭と顔、首周りを、持ってきたバスタオルでふき取り、俺のマフラーを彼女の首に巻く。 雪の下から出てきた顔は、いつもの明るさは消え、憔悴しきった表情のまま目を閉じていた。 唇は紫色で、いつものみずみずしさからはほど遠い。 でも、細かく震えていることで、彼女が生きていることが分かる。 頬にふれる。冷たい。 俺はコンビニで買ってきた、まだ温もりを保っているペットボトルのお茶を取り出し、彼女の頬に押しつける。 そして、ペットボトルのふたを開け、お茶を少し、彼女の口に含ませる。 「う……」 気がついた。 「菜々子さん、大丈夫か?」 「た……かき……く……」 「迎えに来た。帰ろう」 菜々子さんは、かすかに頷くと、また気を失った。 彼女自身は、大きなけがなどはないようだ。 俺は少しほっとして、スポーツバッグに手を伸ばす。 そのとき、まだ鳴り続けている携帯端末に気が付き、彼女の手を見た。 何かを抱え込むように、両腕を重ねている。 俺の、使い捨てカイロを取り出す手が、止まった。 胸ポケットで、ティアが息を飲む気配。 菜々子さんの右手は、携帯端末を握っている。 そして。 「……ミスティ!?」 ティアの叫び。 俺は息を飲む。 左腕に抱え込まれていたのは……無惨に大破したミスティだった。 ■ わたしは、マスターの胸ポケットから飛び出した。 ミスティ。 信じられないその姿。 「うそ……うそでしょ? ミスティッ!!」 いつもの自信に溢れたあなたは、どこに行ったの。 ぐったりと横たわる彼女は、装備をつけたままだった。 その装備も、見る影もないまでに破壊されている。 サブアーム『エアロチャクラム』は左右ともに壊されていたし、『サバーカ』レッグパーツは左足は根本から、右足は足首から先がない。 わたしは親友の体をそっと撫でる。 腹部には、刀傷だろうか、斜めに亀裂が走っている。 両腕は、肘から先がなかった。 綺麗好きな彼女の駆体は、いまや埃まみれの傷だらけだ。 「あっ……ああっ……」 そんなミスティの体に、一つ、二つ、雪が落ちてきた。 わたしは慌てて、すぐにも溶け出しそうな湿った雪を、手で懸命に拭う。 でも、雪は遠慮なしに、次から次へと落ちてくる。 わたしは、ミスティの身体を抱きしめた。彼女を雪から守るように。 ミスティの額に、自分の額を押しつける。 涙がこぼれるのを自覚しながら、さらにミスティを強く掻き抱いた。 目を開けていられない。 目の前にある、彼女の左目は、焼け焦げて窪んでいる。 後ろに回した手に触れる、彼女自慢のロール髪は、いまや焦げ目の先から千切れ飛んで、なかった。 そんな無惨な親友の姿を、直視できるはずがなかった。 雪は容赦なくわたしたちにも降り積もってゆく。 背中がとても冷たい。 それでもいい。我慢するから。 だから、誰か、彼女を……わたしの親友を助けて……。 □ ティアに抱きしめられたままのミスティを、スポーツバッグにそっとしまう。 鳴らしていた携帯端末を切り、緊急の番号を入力する。 が、少しだけ、迷う。 このまま救急車を呼んでもいいが、それを菜々子さんは望まないのではないか。 大破したミスティを見たときに、分かってしまった。 彼女はここでバトルした。 リアルバトル……何でもあり、神姫破壊も辞さない、ストリートファイト。 そして敗れたのだ。 なぜ菜々子さんはリアルバトルなんかやったのか……今は考えるまい。 だが、公式戦でもないリアルバトルには、犯罪が絡む可能性が高い。 菜々子さんがまさか犯罪を犯しているなどとは考えたくないが、否定はできない。 だとすれば、病院に連れ込むよりも、まずは自宅に戻って判断するのが得策ではないだろうか。 菜々子さんの身体に問題があれば、家族の判断で救急車を呼んでもいい。 幸い菜々子さんは大きなけがなどは負っていないようだ。 俺は、携帯から彼女の自宅の番号を呼び出そうとして……手を止めた。 知らなかった。 彼女の自宅の番号も、場所も。 そのことに俺は愕然とする。 菜々子さんの恋人を気取っていながら、俺は彼女のことをろくに知らないことに気が付いた。 自宅のことだけじゃない。 彼女が戦っているその理由も、そして今日、誰と戦ったのかも。 俺は何も知らないのだった。 「……菜々子さん、ごめん」 そんな感傷に浸っている場合ではない、と弱い心を無理矢理叱咤する。 俺は菜々子さんに謝り、彼女の携帯端末を手に取った。 他人の携帯を無断で使うのはかなり気が引ける。 だが、緊急事態だ、と無理矢理自分を納得させた。 アドレス帳を表示して、目当ての連絡先を探す。 あった。 「自宅」とシンプルに登録されているところが、なんとなく菜々子さんらしい。 俺は迷わず、通話キーを押した。 呼び出し音の間に、俺は菜々子さんの家族構成を思い出す。 確か、おばあさんと二人暮らしと言っていたような……。 『もしもし、久住です……菜々子?』 女性の声に、思考を中断させられた。 思わず慌ててしまう。 「え、あ、あの……」 『どちらさま?』 先方は着信時に、この電話が菜々子さんの携帯からであることは分かっているはずだ。 だが、電話口の男の声に、先方の女性の声はいぶかしげな様子もなかった。 俺は一瞬で思考を取り戻すことができた。 「久住菜々子さんの友人で、遠野と言います。彼女の携帯を借りて電話してます」 『あらぁ、あなたが遠野くんなのね?』 「え……俺のこと知って……」 『菜々子から聞いてますよ。いつもあの子がお世話になっています』 「あ、いえ、こちらこそ……」 女性の声は明るく柔らかく、とても落ち着いていた。 そのせいか、一瞬、今の状況を忘れそうになった。 「いや、そうじゃなくて……なな……久住さんから俺に連絡があって、迎えに来たのですが、見つけたときには気を失っていまして」 『あら……』 「込み入った事情がありそうだったので、病院に連絡するより先に、自宅の方に連絡を入れてみたのですが……それでよかったですか」 『いい判断で助かるわ。菜々子はけがとかしてない?』 「はい……特に大きなけがとかは見あたりません」 『それじゃあ、うちまで連れてきてもらった方がいいわ。足はある?』 「タクシーを待たせてますので、大丈夫です」 『じゃ、お願いするわね。タクシー代はわたしが持つから心配しないで。場所は……』 菜々子さんの家までの道のりを、わかりやすく教えてもらった。 えらく話が早い。 「それじゃあ、家の近くまで来たら、また電話します」 『菜々子のこと、頼むわね。遠野くん』 そう言って電話は切れた。 ……相手の名前を聞くのを忘れた。 彼女が菜々子さんのおばあさんなのだろうか? それにしては、声が若々しい気がしたが。 ともあれ、俺はスポーツバッグを肩に掛け、菜々子さんの腕を肩に掛けて担ぐと、待たせてあるタクシーまで歩き出した。 □ タクシーの運転手は、俺が一人でなかったことにぎょっとしたようだったが、 「彼女を迎えに来たんです」 とだけ説明し、行き先を告げると、何も言わずに走り出した。 タクシーは一路、F駅……菜々子さんの家の最寄り駅に向かう。 静かな車内で、俺は菜々子さんの肩を抱きながら、考えに沈む。 俺に電話をかける直前まで、菜々子さんは武装神姫でリアルバトルをしていた。 なぜだ。 なぜ、彼女は自分の大事な神姫を使って、ストリートファイトまがいのバトルをした? バーチャルバトルでなく、リアルバトルでなくてはならなかった理由は何だ? そして、誰と戦った? あのミスティを完膚なきまでに叩きのめした神姫……どんな相手だというのか。 雑然と絡まった俺の思考に、浮かび上がる言葉がある。 「菜々子ちゃんは戦い続けている。もう、ずっと一人で」 かつて、ホビーショップ・エルゴの日暮店長が言った。 彼女を助けてやってくれ、と。 おそらく、今日の敗北は、菜々子さんが戦い続ける理由が深く関わっているのだろう。 タクシーがF駅前の通りを走り抜ける。 ゲームセンターの看板が見える。 『ポーラスター』。 菜々子さんが常連として通う店だ。 彼女がはじめてバトルしたのも『ポーラスター』だったと聞いたことがある。 この店に通っていた頃の菜々子さんに何があったのか。 それもまた、今夜のバトルに関わっている気がする。 だが、今の俺が彼女にしてやれることなんて、皆無に等しかった。 なぜなら、彼女が抱えていることについても、彼女の過去についても、俺は何も知らない。 情けないほど、何も知らないのだ。 暗いタクシーの車内で、俺は隣の菜々子さんを見た。 疲れ切ったような表情で、目を閉じている。 いつもの反則な笑顔の陰で、こんな顔をしていたのだろうか。 俺は運転手に道順を指示する。 それを終えたとき、覚悟を決めた。 菜々子さんの過去に踏み込む覚悟を。 □ F駅から説明されたとおりの道をたどると、あっさり目的地に着いた。 意外に大きな一軒家。 「久住」の表札が見える。 菜々子さんの自宅である。 その門の前に、一人の女性の姿があった。 雪だというのに、その人は俺たちを外で待っていたのだ。 「ご苦労様。運転手さん、代金はおいくら?」 俺が財布を手にするより早く、その女性はタクシーの料金メーターを確認していた。 この人が、菜々子さんの祖母か。 快活そうで、若々しく、とても大学生の孫がいるようには見えない。おばあさんと呼ぶのにためらいを感じるほどだ。 「遠野くん、菜々子を降ろすの、手伝ってくれる?」 料金を払い終えると、その女性は俺にてきぱきと指示を出す。 俺と彼女で菜々子さんを抱え、玄関を抜けて、菜々子さんの部屋に入った。 ……意外な形で、菜々子さんの自宅、それに部屋にまで上がってしまったが、これでよかったのだろうか。 もちろん、そんなことを気にしている状況ではないのだが、どうも落ち着かない。 「ありがとう。申し訳ないけれど、ちょっとあっちの部屋で待っていてくれる? 菜々子を寝かせたら、お茶淹れるから」 「……はい」 夜も遅いので、そのまま帰ろうと思っていたのだが、そう言われてしまっては仕方がない。 俺は玄関に戻る途中、電気のついた、ちゃぶ台のある一室を発見した。湯飲みと急須が置いてある。ここで待て、と言うことか。 スポーツバッグを傍らに置き、ちゃぶ台の前に座った。 見知らぬお宅で一人待つのは、どうにも居心地が悪い。 程なくして、先ほどの婦人が姿を現した。 「お待たせね。夜分に引き留めてごめんなさい」 「いえ、おかまいなく……」 婦人は、俺の向かいの席に座ると、ちゃぶ台の上にあった急須にお湯を注ぎ、お茶を淹れる。 「……菜々子さんの、おばあさん……ですよね?」 「頼子さん」 「は?」 「久住頼子。確かに菜々子の祖母だけど、あの子にもそう呼ばせているから、あなたも頼子さんって呼んでね」 「はあ」 表情は笑っていたが、目が笑っていなかった。 俺は多少ビビりながら、フォローの言葉を口にする。 「確かに、おばあさんと言うには失礼なほどお若いですよね……」 「あらぁ、褒めても何も出ないわよ?」 「……本当はおいくつなんですか」 「女性に年齢をきくなんて、野暮のする事よ、遠野くん」 ……菜々子さんの明るい性格の部分は、この人の影響を多分に受けている気がする。 「今日は菜々子を助けてくれてありがとう」 「いえ……」 「そう言えば、ミスティは?」 「ひどく破損しています。明日、知り合いのショップで見てもらおうと思いますが……見ますか?」 「いいわ。遠野くんに任せます。修理代はわたしに言ってくれれば出すから」 頼子さんは俺にお茶を差し出した。 俺は軽くお辞儀すると、湯飲みを手にする。 あたたかい。 先ほどまで寒空にいた身には、ありがたい。 そう言えば、俺は自己紹介もしていないが、頼子さんは俺の名前を普通に呼んでいる。 少し疑問に思ったので、尋ねてみた。 「俺のこと、知ってるんですか」 「もちろんよ。菜々子がよく話してくれるからね。あなたとは、はじめて会った気がしないわ」 「……なな……久住さんが?」 「別に、いつもと同じように菜々子のこと呼べばいいわよ」 「……はあ」 「最近の菜々子が話すことなんて、あなたのことばっかり。今日の遠野くんはどんなバトルをした、遠野くんとティアがこんなことを話してた……ってね」 恐縮してしまう。 初対面の人に好意的に思われるのはありがたいが、菜々子さんはどんな話をしているのだろうか。 しかし、バトルの話や俺とティアの会話に、頼子さんが興味を持つものなのだろうか。 こう言っては失礼だが、バトルに興味を示すのは若い人たちのように思う。 頼子さんぐらいの歳の人が神姫を持つのは珍しくない。だがそれは、生活のパートナーとしての神姫であって、決して戦わせるためではない。 「あの……頼子さんは、武装神姫にお詳しいんですか」 「まあ、普通の人よりは、ね。わたしも武装神姫やってるのよ」 「え、それじゃあ、ご自分の神姫もいるんですか?」 「もちろん。見せましょうか?」 「ええ、ぜひ」 頼子さんは微笑むと、部屋の隅に声をかけた。 「三冬、いらっしゃい」 「はい、奥様」 テレビ台の陰から、そっと姿を現したのは、一人の神姫だった。 「ハウリン型……」 「はい。はじめまして、遠野さん。頼子奥様の神姫で、三冬といいます。よろしくお願いします」 とても丁寧な挨拶が、この三冬の性格を窺わせる。 ハウリン型はもともと素直で従順な性格だが、この礼儀正しさは頼子さんの教育によるものだろうか。 「三冬は……バトルをするのか?」 「はい。現在、ファーストリーグ四七位です」 「ぶっ」 頼子さんと三冬がファーストランカー!? 言っちゃ悪いがその歳で、武装神姫でもっとも過酷なファーストリーグを戦っているのか。 ハウリン型がパートナーというところから見ても、頼子さんの武装神姫歴は相当長いようだ。 頼子さんは笑いながら言った。 「昔からゲームが好きなのよ。それこそ、対戦格闘ブームの頃から。バーチャ2の盛り上がりったら、今思い出してもすごかったわねぇ」 「はあ」 うっとりとした表情で話す頼子さんの言葉は、俺が生まれる前どころか、前世紀の話であることを、後で知った。 「それじゃあ、菜々子さんが武装神姫を始めたのは……頼子さんの影響ですか」 「そう……神姫を与えたのは、確かにわたしね」 「それなら、頼子さんはご存じですか? 菜々子さんは何を追い求めて戦っているのか。彼女の過去に何があったのか」 頼子さんは湯飲みを口元からゆっくりとちゃぶ台に降ろすと、そっと目を閉じた。 「すべては知らないわ……でも、あの子が誰を捜しているのかは知っています」 「誰……って人なんですか?」 「そう。あの子が捜しているのは、桐島あおい、という神姫マスターなの」 「桐島、あおい……」 知らない名だった。 「そうでしょうね。有名なマスターではないし……。 でも、あの子にとっては、とても大切な人だったのよ」 「……」 「あおいちゃんは、あの子にとって、親友であり、ライバルであり、武装神姫の師匠であり、絶望から助けてくれた恩人であり……本当の姉以上の存在だった」 「……教えてもらえませんか? 菜々子さんと、その桐島あおいという人のことを」 俺は、覚悟を持ってその一言を放った。 頼子さんが俺を見る。目が合う。 すると、頼子さんが微笑んだ。 「菜々子の言った通りね」 「え?」 「遠野くんの視線はいつも真っ直ぐだって」 「そんな……」 「いいわ。わたしの知っていることを話しましょう……少し長くなるけど、大丈夫かしら」 「お願いします」 俺は頼子さんに頭を下げた。 俺が顔を上げると、驚いたことに、頼子さんが俺に頭を下げた。 「ありがとう、遠野くん……菜々子を心配してくれて……あの子に踏み込んで、助けようとしてくれて……」 俺はまた恐縮してしまう。 頼子さんには、俺の言動など、何もかもお見通しのようだった。 次へ> Topに戻る>